熊本家庭裁判所 昭和44年(家イ)474号 審判 1969年6月04日
本籍 熊本県菊池郡 住所 熊本市
申立人 北村勝子こと張勝子(仮名)
国籍 韓国 住所 熊本市
相手方 張栄幹(仮名)
主文
申立人と相手方との昭和二六年一月二三日熊本県菊池郡○○○村長の受附にかかる届出による婚姻が無効であることを確認する。
理由
一 申立人は主文同旨の調停ならびに審判を求め、その理由とするところの要旨は、申立人は元来、父北村繁徳、母タマの二女として本籍を熊本県菊池郡○○村大字○○△△番地の○に有した日本人女子であつたが、昭和二四年九月頃から韓国の国籍を有する相手方と知り合い、内縁関係に入り、以来約二〇年間夫婦として生活し、その間に五名の男児を儲けて、将来も夫婦関係を継続する意思を有している。
そして、昭和二六年一月二三日には申立人と相手方は熊本県菊池郡○○○村長に対し婚姻届出を為し、同日受附けられて申立人は日本の戸籍から除籍された。(もつとも申立人は昭和三九年一二月二〇日戸籍改製にあたり、戸籍記載遺漏の理由により再び戸籍を回復されているが、この記載は過誤によるものと認められ、従つて申立人は日本国籍を有しない。)
ところが、相手方は申立人と婚姻する以前西紀一九四〇年(昭和一五年)一月三〇日韓国人権令華と既に婚姻しており、その状態が継続していたもので、このことは相手方が昭和四二年五月頃協定永住許可申請のため韓国から戸籍謄本を取寄せた際、はじめて判明したものである。
そこで相手方は韓国に赴き、権令華と西紀一九六九年(昭和四四年)四月一三日協議離婚をして、その旨の申告をなしたため、現在では重婚関係は解消されているが、申立人は日本、韓国何れの国籍をも取得していない現状にあつて困却している。
そこで申立人と相手方との婚姻届出当時は重婚であり、その婚姻は無効であるから、申立人はその戸籍の訂正を求めたく、本件申立に及んだ、と言うのである。
二 当裁判所は、本件について開いた調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の審判を受けることについて合意が成立し、かつ事実関係についても争いがないので事実の調査をしたところ、上記の事実はすべてこれを認めることが出来た。
三 ところで、婚姻の成立要件についての準拠法である法例第一三条第一項によれば、婚姻成立の要件は各当事者の本国法によるべきところ、重婚は日本国民法第七四四条および第七三二条により取消事由とされ、しかも前婚が離婚によつて解消した場合には後婚はもはや重婚とはなり得ず、取り消すことができないものと解されるのであるが、相手方の本国たる韓国においては、本件婚姻当時には未だ婚姻に関する明文の規定なく旧来の慣習によつて重婚は当然無効とされており、その後檀紀四二九三年(昭和三五年)一月一日より施行された大韓民国民法第八一六条第一号および第八一〇条によると重婚は取消事由とされてはいるが、同法附則第二条但書によつて同法の遡及効の適用を制限しているので、結局同法施行前になされた重婚は慣習によつて当然無効とされなければならない。
しかも本件の如く当事者双方の本国法の規定する婚姻の効力が異なる場合には厳格な規定を適用すベく、すなわち前記韓国の慣習法に従うべきものと解されるから、本件当事者間の婚姻は無効であると言うことができる。
以上認定した事実によると本件当事者間における前記合意は相当と認められるので、これを認容することとし、家事審判法第二三条に則り主文のとおり審判する。
(家事審判官 池畑祐治)